海に近い神奈川県(横浜・鎌倉・逗子など)では、常に“塩風・湿気・紫外線”が壁に襲いかかる。
この過酷環境下では、標準的な塗装施工でも不具合が起きやすくなる。
ここでは、神奈川海沿い住宅で実際に起きた不具合事例と、その原因・対策を地域特性を交えて解説する。
1. 塗膜の膨れ・剥がれ:塩分が壁内部に影響
事例
海風の影響を受けやすい南側壁面で、わずか半年ほどで塗膜が浮き、そこから剥がれが始まった。
特に、軒先・サッシ周り・パラペット天端など塩分が滞留しやすい部位で発生。
原因
- 洗浄後の乾燥不十分 → 壁に水分や湿気が残っていた
- 下地に塩化物イオン(海風の塩分)が残存 → 塩分による内部膨張
- 下塗り・シーラー選定ミス(耐塩仕様でないものを使用)
- 膜厚不足・2回塗りのみで施工
対策
- 洗浄後は完全乾燥(48時間以上+湿度確認)を必須にする
- 下地塩分除去(洗浄・中性水洗い)処理を含む
- 耐塩性仕様の下塗り材/シーラーを要求する
- 塗装は3回塗り以上、適切膜厚確保
- 契約書に「膨れ保証」「塩害補修条項」を含める
2. 色ムラ・白っぽく見える部分:潮風の影響
事例
北面や海側に面する壁で、他面と色が違って見える。特に3分艶仕様でムラが顕著。
光の角度で白っぽく飛んで見える箇所も発生。
原因
- 艶抑え仕様(3分艶)を選んだが、撹拌・使用条件が不適切
- 周辺景色(海面の反射・空の光)が壁面に反射して影響
- ロット・調色ムラ
- 重ね塗り時の乾燥ムラ
対策
- 大型の塗り板(A4以上)を実際に海風下で行うテスト
- 艶あり仕様との見比べを外観シミュレーションで実施
- 光の反射を読む施工順序(海側面は夕方の光線加味)
- 撹拌や塗料ロット統一・混合禁止を徹底してもらう
3. 塗装のはみ出し・汚れ飛散:潮風で飛散しやすい
事例
強風時に広い窓枠・雨樋に塗料が飛び散ったり、塗料滴が海風で飛散して隣家に付着することも。
原因
- 養生シートの風対策が甘い
- 施工時の風速無検討
- 塗料飛散防止策が不十分
対策
- 養生を固定力強化・2重構造にする
- 施工日の風速チェック(5 m/s以上なら延期)
- スプレーで吹付けを行う場合は風向きを配慮
- 近隣住宅や車両への保護養生を徹底
4. 塗膜保護効果低下:紫外線・潮風複合劣化
事例
3〜5年経過後、艶が早く失われ、白粉(チョーキング)・色あせ・微細なひび割れが出始めた。
原因
- 屈指な紫外線・潮風環境下での色素・顔料劣化
- 低耐候仕様を選定
- 汚染付着(潮風塵・海塩)が表面に蓄積
対策
- 高耐候・低汚染設計の上塗り塗料を選ぶ
- 初期洗浄・定期メンテナンスで汚れを流す
- メーカー仕様通りの膜厚と重ね塗りを守る
5. コーキング劣化・目地剥がれ:塩分と伸縮の複合影響
事例
サイディング目地やサッシ廻りコーキングが早期に割れ・剥がれ、雨水浸入のリスクに。
原因
- 塩化物の侵入による劣化促進
- 乾湿差・温度差の影響(冬季乾燥と夏期湿気)
- 打ち替え工事をせず、増し打ちのみで済ませた
対策
- コーキングは完全打ち替えを推奨
- 耐塩性・耐候性の高い変性シリコン系シーリング材使用
- コーキング部も美観維持設計を含めて施工
✅ 海沿い住宅向け施工前チェックリスト
- 洗浄後乾燥期間は最低48時間/湿度チェック必須
- 艶仕様の選定(艶あり・3分艶)でムラリスクを考慮
- 下塗り・シーラーは耐塩性仕様品を
- コーキング材は耐塩・耐候性能重視
- 養生・風対策を徹底(飛散防止)
- 定期洗浄・初期点検計画を契約に含める
まとめ
神奈川県の海沿い住宅では、塩害・湿気・紫外線のダブルパンチが外壁を攻める。
そのため、標準施工だけでなく、沿岸仕様・耐塩設計・風対策を含むチェックリストで業者と対話しておくことが、長期的な美観と安心を守る鍵になる。
