リシン仕上げは、モルタル外壁の中でも特に人気の高い仕上げ方法のひとつです。 その繊細なザラザラした質感や、落ち着いた艶消しの表情は和洋どちらの建物にも調和します。 しかし、再塗装の際に正しい施工手順を踏まないと「吸い込みムラ」「塗膜の膨れ」「早期の剥離」といったトラブルが起こりやすいのも事実です。 この記事では、元塗料メーカー営業として多くの現場に立ち会ってきた経験から、**メーカー技術資料に基づいた確かなリシン外壁再塗装のポイント**を解説します。
1. リシン外壁の構造と再塗装時に起こりやすいトラブル
リシンとは、モルタル下地に骨材(砂や軽量骨材)を混ぜた樹脂を吹き付けた仕上げ材です。 表面には無数の細かい凹凸と微細な空隙があり、この“多孔質”な構造が自然な質感を生み出す一方で、再塗装時には塗料を過剰に吸い込みやすい性質を持ちます。
| 主なトラブル | 原因 | 対策 |
|---|---|---|
| 吸い込みムラ | 下塗り不足・劣化リシン面 | 微弾性フィラーで吸い込みを均一化 |
| 塗膜の膨れ・剥がれ | 高圧洗浄後の乾燥不足・含水状態での塗装 | 最低2〜3日以上の乾燥時間を確保 |
| ヘアクラックの再発 | 弾性のない上塗り塗料の使用 | 弾性塗料とフィラー併用で追従性を確保 |
リシン仕上げは経年劣化により「チョーキング(白亜化)」や「微細なひび割れ」が進行しやすく、塗り替えの際は下地処理を丁寧に行うことが最重要です。
2. 下塗りの役割:吸い込み止めと密着性の確保が塗装寿命を左右する
塗料メーカーの技術資料でも共通して強調されているのが、**「リシン面は下塗りが命」**という点です。 下塗りには大きく2つの役割があります。
- ① 下地の吸い込みを止めて塗料の発色・膜厚を均一化する
- ② 上塗りとの密着性を高め、剥離を防ぐ
特にリシンは表面の空隙が多く、下塗りを省略したり一般的なシーラーを薄塗りすると、上塗り塗料が下地に吸い込まれて「まだらな艶ムラ」や「密着不良」を起こします。 メーカーではこのような下地には**微弾性フィラー**の使用を推奨しています。
【図1:リシン外壁の断面構造と塗膜構成】 ┌────────────────┐ │ 上塗り(シリコン・フッ素系など) │ ← 美観と防水層 ├────────────────┤ │ 下塗り(微弾性フィラー) │ ← 吸い込み止め+クラック追従 ├────────────────┤ │ リシン層(多孔質) │ ← 塗料を吸収しやすい層 ├────────────────┤ │ モルタル下地 │ ← クラック・含水しやすい層 └────────────────┘
この下塗り層をどれだけ「厚み」「均一さ」「密着性」をもって形成できるかが、最終的な仕上がりと耐候性を大きく左右します。
3. 高圧洗浄後の乾燥不足が引き起こす「塗膜膨れ」
リシンやモルタルは多孔質なため、洗浄後に内部へ水分が深く入り込みます。 この状態で塗装を行うと、塗膜の下に閉じ込められた水分が蒸発して膨れ・剥離を引き起こします。
【図2:乾燥不足による塗膜膨れの断面イメージ】
上塗り ────────┐
↑ 内部の水蒸気で膨れ
下塗り ────────┘
リシン層(水分残留)
モルタル下地
特に北面や日陰面は乾きにくいため、メーカー仕様書でも「表面が乾いていても内部含水が残る」と警告しています。 現場では湿度計や含水率計で確認し、**23℃環境で2〜3日以上(冬季は4日以上)**の乾燥期間を設けるのが理想です。
4. ヘアクラック対策:柔軟な塗膜で動きに追従させる
モルタルやリシン下地は温度変化や地盤の微動で伸縮するため、0.3mm前後のヘアクラックは必ず発生します。 この微細なひび割れを埋めずに塗装すると、再塗装後も同じ箇所からひびが再発します。
【図3:ヘアクラック補修断面】 表面:弾性上塗り ──── 柔軟に追従 補修層:微弾性フィラー ─ クラック充填 下地:モルタル
補修方法は以下の手順が基本です。
- クラック部をワイヤーブラシやエアブローで清掃
- 微弾性フィラーや補修パテで埋める
- 全面をローラーで均一に下塗り → 弾性塗料で仕上げ
ヘアクラックの多い外壁では、上塗りも弾性タイプ(例:ラジカル制御型弾性シリコン)を選定することで、下地の動きに追従し再発を防止できます。
5. 各塗料メーカー推奨仕様と技術資料抜粋
■ 日本ペイント
- 下塗り材: パーフェクトフィラー(水性反応硬化形微弾性フィラー)
使用量:0.20〜0.45kg/㎡(ウールローラー)/乾燥4時間以上(23℃)
仕様書:公式製品ページ / 技術資料PDF
特長:吸い込み止めとクラック追従性を両立。中性化防止にも効果。 - 上塗り材: パーフェクトトップSi(ラジカル制御型シリコン)
耐候性:JIS K 5670適合、防藻・防カビ性◎
仕様書:公式仕様書
■ 関西ペイント
- 下塗り材: アレスホルダーGⅡ(水性反応硬化形微弾性下地調整材)
希釈率:清水7〜15%(エアレス塗装時)
仕様書:製品カタログ - 上塗り材: アレスダイナミックTOP(高耐候ラジカル制御塗料)
耐候性・防藻防カビ性◎、弾性上塗りとの併用でリシン面に最適。
仕様書:外壁標準仕様書
■ エスケー化研/ロックペイント
- エスケー化研:ミラクシーラーEPO or 弾性フィラー+プレミアムシリコン
- ロックペイント:ハイパーシーラーエポ+ハイパービルロックセラ
各メーカーとも共通しているのは「リシン・モルタル系下地=微弾性フィラー必須」「乾燥時間の確保」「弾性上塗りの推奨」という点です。 これは実験室のデータだけでなく、現場での長期追跡試験の結果に基づくものです。
6. まとめ:リシン外壁で失敗しないための3つの鉄則
| チェック項目 | 施工上のポイント |
|---|---|
| 吸い込み対策 | 微弾性フィラーを厚めに塗り、下地を均一化 |
| 乾燥期間 | 洗浄後2〜3日(冬季は4日)以上、含水を残さない |
| クラック補修 | フィラー+弾性上塗りで動きに追従 |
リシン塗装の仕上がりは、上塗りよりも下地処理の出来栄えで決まります。 「どの塗料を使うか」よりも、「どのように下地を整えるか」。 業者選びでは、見積書に“使用下塗り材の製品名とメーカー名”が明記されているか必ず確認しましょう。
